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第2回
「子猫をお願い」
第2回
「子猫をお願い」

 このコーナーのタイトル「印象的なセリフを気にとめるためにネタバレに気をつけないコラム」があまりに長いので編集者との間では「逆境コラム」と呼び合っています。雑誌の売れ行きが逆境、映画知らずが映画を観て何か書くというのがそもそも逆境、というダブル・ミーニング。そんな逆境の本誌と筆者が今回取り組んだのは『子猫をお願い』(2001、ペ・ドゥナ主演)です。前回のような死刑囚ネタではほんわかはむずかしいと編集者に泣きついたら、今度は子猫の映画を送ってきてくれました。「子猫をたらい回しにする映画」という編集者の一言のみを頼りに逆境に立ち向かってみます。

印象的なセリフに気をとめるためにネタバレに気をつけないコラム 第2回「子猫をお願い」  高校時代からの友人グループ、みんな二十歳(高校出て数ヶ月、数え年なので実際は満で19歳くらい)で同い年の女の子たち、ジヨンとテヒとヘジュと双子のピリュ・オンジュ、この四者が互いに絡んでエピソードが展開されます。ジヨンは両親が死んでいて祖父母と暮らしているテキスタイル・デザイン志望の内向的なひねくれ屋さん、テヒは家業のサウナ風呂を手伝いつつボランティア活動などに忙しい世話焼きさん、ヘジュはソウルの證券会社に勤めるおしゃれ好きなわがままさん、双子は二人でワンセットですが若手お笑いコンビみたいな癒し系、でしょうか。この双子が芸達者で好感が持てます。道端で手作りのアクセサリーを売って生活しているようですがおそらく無職。「좀 깎아 주세요. [チョム カッカ ジュセヨ.](まけてよ)」「그러면 우리 둘 중에 누가 언닌지 알아맞추면 깎아줄게. [クロミョン ウリ トゥル ジュンエ ヌガ オンニンジ アラマッチュミョン カッカ ジュルケ](じゃあ、あたしたちのどっちがお姉さんか当てたらまけてあげる)」。ギャグにはなっていませんが、双子ですからこういうくすぐりも約束事として必要です。

 なんだか出演シーンが多いなあと思ったのはヘジュです。この子はじつによく着替えます。コスプレかと思いました。證券会社の制服(キャリア採用ではなく一般事務採用なので制服着用)、テヒの家ではなぜかチャイナドレス(舞台が仁川なので中国色を出しているようです。仁川にはチャイナタウンがありますし、双子のピリュとオンジュの母方は中国系)、みんなで遊びに行った東大門の服屋さん、などなど。友人同士が久しぶりに集まって楽しい東大門でのお買い物。でもジヨンとヘジュの間がぎくしゃくしています。ジヨンはヘソ曲げてさっさと帰ってしまい、そこで世話焼きのテヒがヘジュに向かって言う「현재 너한테 중요한 거 뭐야? [ヒョンジェ ノハンテ ジュンヨハン ゴ ムォヤ](今あんたにとって大事なのは何?)」というこの映画にとってたいへん象徴的な台詞があります。一番大事なものって何だろう。ふつうなら己を顧みるでしょう。そしてテヒが投げかけたこの問いへのヘジュの答えは一言ずばり、「옷이다! [オシダ](服よ!)」。見事です。鼻の下に生ぶ毛がうっすら見えるような小生意気な女の子の台詞としては、短いということもあり本編中で最高の台詞でしょう。ヘジュの台詞にはそのまま使えそうなものが多く、会社のかっこいい上司に誘われて「저야 뭐 늘 오픈이죠. [チョヤ ムォ ヌル オープニジョ](あたしなんかいつもフリーですから)」なんていうのも使い勝手が良さそうです。ただし、まず誘われてから言わないと単に物欲しげに見えますのでその点気をつけてください。

 この映画はなんだか伏線の多い映画で、ジヨンが子猫を追って屋根の上に出るというシーンの少し前には、その真下にある居間の天井が重さでたわむ、天井から雨漏りのように土がこぼれ落ちるというシーンがあります。ジヨンの家は仁川の中でも低所得者層の住宅街にあるバラック。ボロボロです。そういう屋根の上で猫を追っかけ回すわけです。そして映画の後半では、ジヨンが家に帰ってくると家が倒壊していて、祖父母は潰れて死んでいるという、なんとも息の長いシークエンスを構成しています。おまけにジヨンはあらぬ嫌疑をかけられて少年院に一時的にですが拘置されます。それというのも、祖父母と三人でご飯を食べていると、おばあちゃんは歯が悪いのでキムチを上手にかみ切れません。ジヨンが「칼로 잘라 먹으면 되잖아! [カルロ チャルラ モグミョン デジャナ](包丁で切って食べなさいよ!)」と業を煮やして台所に包丁をとりにいくと、ちょうど知り合いがやって来て、包丁を手にしたまま応対したものですから、客は驚くわけです。家屋倒壊によって祖父母が死ぬと、これはもしかしてジヨンちゃんが貧乏暮らしがいやになってやっちゃたのではと、たぶん密告されています。こういうビンボくさいシチュエーションをビンボくさいままに抽出して見せる手際はさすが韓国映画なのですね?

 世話焼きさんのテヒは男の子っぽく見えますが、そのわりに男性を引きつける魅力があります。筆者が引きつけられたのではなく映画の中での話です。仁川は港もある特色の多い国際都市ですから外国の船員さんなんかも歩いています。寄ってきた上陸休暇中の船員さんに返事をするフランクさを持っているのは登場人物の中ではテヒだけです。「(テヒ)어디서 오셨어요? [オディソ オショッソヨ](どっから来たの?)」「(船員)미얀마. [ミヤンマ](ミャンマー)」「(テヒ、友人たちに聞く)미얀마가 어디 있는 거야? [ミヤンマガ オディ インヌン ゴヤ](ミャンマーってどこ?)」「(一同)버마! [ボーマ](ビルマ!)」。物知らずだけど気の優しい子です。だからこそ身体障害者のための詩の口述筆記のボランティアもするし(この身体障害者からももてる)、バスの中では物売りからも何かしら買ってしまいます。「歯ブラシ七本セット、七色そろって5000ウォンのところ1000ウォン」を土産にジヨンを元気づけに行くテヒはデパートで買った高級品だと言うのも忘れません。テヒは気配りの人でもあります。

 それはともかく問題は子猫です。子猫をお願いしなければいけません。ジヨンは大事な子猫をヘジュに誕生日にプレゼントにしますが、翌日あっさり返却。ジヨンが少年院に入っている間は(家屋倒壊のとき子猫はどうしていたのでしょう)テヒが預かって、テヒはその後で双子に預けて、ジヨンの出所を待って二人で海外へ。あらら。これは「自分たちの子猫時代に終わりを告げる」ために、その象徴である子猫をたらい回しにしたということですね。きっとそうです。だってラストで飛行機をバックにして「Good Bye」って大きく画面に出ましたもの。最後に子猫を押しつけられた双子の行く末が心配されますが、ノープロブレム。子猫はあっという間に大きくなります。青春と同じです。うまくまとめてみました。

 最後になりましたが、筆者は映画を見終わるまでヘジュ役の人がペ・ドゥナという女優さんだと思っていました。よくわからない余韻にひたりつつエンドロールを見ていたら、ペ・ドゥナはテヒ役だって。キャスト紹介は冒頭にもありましたが、そんな所を気をつけて見るような筆者ではありません。筆者にとって今回のほんわかはエンドロールです。筆者がおかしなところでほんわかしないように編集者はこういうことは先に言っておいてほしいと思います。
(『Brand-new KOREA』2007年8月号掲載)

初級までの朝鮮語・初級から先の朝鮮語 文・イラスト ◉ 白宣基 ( 백선기 ペク・ソンギ )
韓国語学習サイト「初級までの朝鮮語・初級から先の朝鮮語」の管理者、韓国語クロスワードパズル作家、在日本韓国YMCA韓国語講座主任講師。少し的を外した視点がかえって的を射ているという授業を得意としている。
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